鏡の国の7人(セブン)

第一章:引きこもりと鏡の国の入り口

雨の日の教室は、いつも独特の静けさに包まれる。窓の外で雨が滴る音が、教室いっぱいに広がっていく。そんな雨の日の昼休み、クラスの中心的な存在の男子生徒が、唐突にこころに話しかけてきた。

「雨の日ってさ、嫌いだな。なんか、気持ちまでジメジメしてくる」

その言葉に、周囲の同級生たちが笑顔で同意する。

「そうそう、雨の日はなんかやる気出ないよね」
「髪の毛も広がっちゃうし、最悪」
「僕は逆に、雨の日の静けさって好きだけどな。みんなは違うの?」

その問いに、こころは思わず本音を漏らした。

「私は雨、好きです。雨の音を聞いていると、なんだか心が落ち着くんです」

一瞬、教室に緊張が走る。そして、次の瞬間......。

「雨が好きだなんて、変わってるね」
「変わってるよ。雨が好きとか、暗い子だね」
「ねえ、もしかして、そういうキャラで売ってるの?」

好意的な反応を期待したわけではない。ただ、自分の正直な気持ちを言っただけだった。しかし、返ってきたのは、からかうような言葉の数々。こころは、その時理解した。自分の居場所はここにはないのだと。

こころの名前は、白石 こころ。16歳の高校生だ。幼い頃から、少し夢見がちなところがあり、空想の世界に浸ることを好んでいた。学校では、その性格ゆえにからかわれることもあり、少しずつクラスの中で浮いた存在になっていった。

そんなこころにとって、学校は居心地の良い場所ではなかった。毎日、教室に入るたびに、重い扉を開けるような気分になる。からかわれることのないよう、できるだけ目立たず、静かに過ごそうとしていた。

しかし、あの雨の日の出来事は、決定打となった。こころは、ますます学校に行くことが怖くなり、 eventually、学校に行かなくなる。毎朝、母親が仕事に行くのを見送った後、こころは自分の部屋に引きこもるようになった。

ベッドに横たわり、天井を見つめながら、いろいろなことを考えていた。

「みんな、どうしてあんなに群れて行動するのだろう? 一人一人が違う考えを持っているはずなのに」
「私は、ただ、雨が好きだと言っただけなのに」
「学校に行かなくても、生きてはいけるよね?」

そんな風に考えていると、不意に、部屋の隅に置かれた鏡が光り始めた。不思議に思ったこころが身を起こし、近づいてみると、鏡の中が光で満たされ、吸い込まれていくような感覚に陥る。

「なんだろう、これ......」

そうつぶやいた瞬間、こころは鏡をくぐり抜け、全く別の世界に足を踏み入れていた。

第二章:7人の仲間たちとの出会い

鏡の向こう側にあったのは、美しい城のような建物だった。こころは、自分が今までいた世界とは全く異なる世界に迷い込んだことを理解する。周囲を見回すと、城の中庭のような場所に、自分と同じ年頃の少年少女が集まっていた。

「ここは......どこ?」
「どうして、僕たちはここに?」
「ねえ、誰か、何か知らない?」

少年少女たちは、お互いの存在に戸惑いながら、自分たちがここに連れてこられた理由を考えていた。

そこにいたのは、7人の高校生たち。こころと同様に、それぞれが生きづらさを感じ、苦悩を抱えていた。

「僕はリオン。群れるのが苦手で、いつも一人でいるんだ。みんなはどうしてここに来たの?」

金髪の少年、リオンが問いかける。彼の隣には、少し控えめな雰囲気の少女、ウレシノがいた。

「私はウレシノ。みんな、学校では明るく振る舞っているけど、本当は人付き合いが苦手で......。あなたはどうしてここに?」

少し離れた場所には、芸術家肌の少女、フウカがいた。彼女は、自分の世界に入り込むことが多いらしく、周囲から変わり者扱いされていた。

「フウカよ。私はね、ここが現実なのか、夢なのか、わからないの。もしかしたら、私たちは夢の中にいるのかもしれないわ」

フウカの隣には、マサムネという少年がいた。彼は、学校では優等生を演じていたが、本当は自分に自信が持てず、常に不安を抱えていた。

「俺はマサムネ。みんな、学校ではどんな風に過ごしてる? 俺はいつも、必死に良い子を演じてるんだ」

明るい笑顔を見せる少年、スバルは、クラスの人気者だったが、本当はからかいやいじめに悩み、笑顔の裏で涙を流していた。

「スバルだよ。みんなは、学校で楽しくやってる? 俺は、みんなを笑わせてるけど、本当は笑えないんだ」

そして、少し離れた場所に立っていたのは、アキという少女だった。彼女は、学校ではクールな態度を貫いていたが、本当は優しくて感情豊かな性格の持ち主だった。

「アキ。みんな、学校では無理してない? 私は、いつも無理してた。本当の私は、もっと感情的なのに」

こころは、7人の仲間たちと出会い、自分だけが生きづらさを感じているわけではないのだと気づく。それぞれが、学校や社会の中で、自分の居場所を見つけるのに苦労していたのだ。

第三章:城での共同生活と絆の深まり

鏡の国の城で目覚めた7人は、不思議な力によってここに集められたのだと悟る。この城は、現実の世界から切り離された空間であり、7人はここで共同生活を送ることになる。

毎日を共に過ごす中で、7人は徐々に絆を深めていく。城の中庭で語り合い、お互いの悩みや本音を共有した。

「みんな、学校では無理してるんだね。僕は、一人でいることが多いから、みんなみたいに悩んだことはないけど」
リオンが静かに語る。

「リオンは、一人でいることを選んでるの? それとも、そうせざるを得ないの?」
ウレシノが問いかける。

「僕は......、少し、人と違うところがあるから、自然と一人になってしまうんだ」
リオンの言葉に、フウカが優しく微笑む。

「リオンは、きっと感受性が豊かなのね。私も、みんなと違う感性を持っているの。だから、時々、みんなについていけないのよ」

マサムネは、フウカの言葉に励まされたようだった。

「フウカさんみたいに、自分の個性を大切にできるといいんだけど、僕はいつもみんなに合わせなきゃって思っちゃう」

スバルは、マサムネの言葉に共感する。

「俺もそうだよ。みんなの期待に応えなきゃって、無理して笑ってた」

アキは、スバルの言葉に優しく頷いた。

「スバルは、みんなを笑顔にするのが得意なのね。でも、本当のあなたは、もっと違う表情を持っているのよね」

こころは、7人との会話の中で、自分だけが苦しんでいるのではないと感じ、心が軽くなるのを感じた。

「みんな、学校では闘ってるんだね。私は、闘わずに、自分がしたいことをしてみようかな」

第四章:こころとアキの恋愛模様

こころとアキは、7人の中でも特に親しくなっていった。2人は、城の中庭でよく一緒に過ごし、お互いの悩みや考えを語り合った。

「アキは、学校ではクールなんだね。本当のあなたは、もっと感情的で、優しい人なんだ」

「こころは、私の気持ちをわかってくれるの。学校では、いつも無理してた。みんなと一緒に笑ったり、冷めた態度をとったり......。本当は、もっと感情的に生きていきたいのに」

アキは、こころにだけ見せる優しい笑顔があった。2人は、お互いのことをもっと知りたいと思うようになり、少しずつ距離を縮めていく。

「ねえ、こころ。もし、ウレシノがリオンを好きになったら、どう思う?」

ある日、アキがこころに問いかける。ウレシノは、リオンに好意を寄せているようだった。

「それは......、ウレシノの気持ち次第じゃないかな。でも、もしそうだとしても、リオンがそれに気づいてないなら、伝えた方がいいと思う」

こころは、アキの問いに戸惑いながらも、自分の考えを述べる。

「そうだね。ウレシノの気持ちを大切にしたいよね。でも、もしリオンが私を好きになったら......?」

アキは、こころに少しいたずらな笑みを浮かべる。

「それは......、その時は、私も諦めがつくかな」

こころは、アキの笑顔にドキッとし、自分の気持ちに気づき始める。

「私......、アキのことが好きなのかな?」

第五章:喜多嶋先生との関わりと心の成長

こころが学校に行かなくなって数週間が経ったある日、母親が心療内科の医師を家に呼んだ。母親は、こころが学校に行けないことを心配し、専門家の助けを求めたのだ。

医師の名前は、喜多嶋 薫。こころは、喜多嶋先生の優しい雰囲気に安心感を覚え、自分の気持ちを話し始める。

「喜多嶋先生は、学校に行かなくてもいいって思う?」

「こころさん、あなたは毎日、自分と闘っているのね。学校に行かなければという思いと、行きたくないという気持ちの間で。でも、闘わなくてもいいんですよ。自分がしたいと思うことをしてみませんか?」

喜多嶋先生の言葉は、こころの心に響いた。

「自分がしたいことをする......。でも、私は、学校に行かなきゃいけないんじゃ......」

「学校に行くことは、とても大切なことです。でも、それが今のあなたにとって、本当に必要なことでしょうか? 今は、あなたが自分らしくいられる場所を見つけることが大切なのではないでしょうか」

喜多嶋先生の言葉は、こころの心の中の迷いを少しずつ解きほぐしていく。

「自分らしくいられる場所......。先生、私は、今、鏡の国の城で、同じような仲間たちと過ごしてるんです。そこでは、私は自分らしくいられるんです」

こころは、喜多嶋先生に鏡の国のことを話した。先生は、こころの話に驚きながらも、優しく耳を傾ける。

「鏡の国......。それは、あなたが心の中で見つけた、自分らしくいられる場所なのかもしれませんね。そこでの経験が、きっとあなたを成長させてくれるでしょう」

喜多嶋先生の言葉に励まされ、こころは、鏡の国の城で過ごす日々にますます意義を感じるようになる。

第六章:7人が集められた理由と生きづらさの克服

こころたちは、城の中で過ごす日々を通して、お互いの生きづらさや悩みを乗り越えるヒントを見つけていく。

リオンは、自分の感受性の強さを理解し、一人でいる時間を大切にしながらも、少しずつ仲間との関わりを深めていく。ウレシノは、リオンへの思いを伝え、2人はお互いを支え合うようになる。

フウカは、自分の個性を認め、学校に戻ったら芸術部に入ろうと考えるようになる。マサムネは、フウカの言葉に励まされ、自分に自信を持ち始め、本当の自分を表現できるようになる。

スバルは、無理に笑うことをやめ、自分の感情に正直になることを学ぶ。アキは、こころとの関わりを通して、自分の感情を表現することの大切さを学び、クールな態度の裏に隠していた優しさを表に出せるようになる。

そして、こころは、7人との関わりの中で、闘わずに自分がしたいことをする大切さを学ぶ。学校に行くことだけが全てではないと知り、鏡の国の城で過ごす日々が、自分にとって必要な時間だったのだと気づく。

「私たちは、なぜここに集められたんだろうね?」
リオンが問いかける。

「きっと、私たちが自分らしく生きていくために必要なことを学ぶためなんじゃないかな」
ウレシノが微笑む。

「そうだね。ここでの経験は、きっと私たちの糧になるよ」

こころは、7人との絆を胸に、鏡の国の城を後にする準備をする。

第七章:こころの学校復帰と7人のその後

こころは、鏡の国の城での経験を通して、大きく成長していた。喜多嶋先生との関わりや、7人との絆は、こころに自分らしく生きる勇気を与えてくれた。

こころは、母親に自分の気持ちを話し、学校に復帰したいと伝える。母親は、こころの成長を喜び、その決断を応援した。

学校に復帰したこころは、以前とは違う気持ちで教室の扉を開けた。

「おはよう、こころ。久しぶりだね」
「こころ、元気そうでよかった」
「雨、好きって言ったの、覚えてるよ。俺も、最近、雨の音を聞くのが好きになったんだ」

こころは、教室で温かい言葉をかけられ、驚く。からかいの言葉はなく、同級生たちは、こころを温かく迎え入れてくれたのだ。

こころは、7人との絆を胸に、新たな気持ちで学校生活を送り始める。

リオンは、自分の個性を大切にしながら、少しずつ友人を増やしていった。ウレシノは、リオンとの関係を大切にしながら、人付き合いの苦手さを克服していく。

フウカは、芸術部に入り、自分の個性を表現する場を見つける。マサムネは、本当の自分を表現できるようになり、自信を持って学校生活を送る。

スバルは、無理に笑うことをやめ、自分の感情に正直に生きることを選ぶ。アキは、こころとの関係を通して、クールな態度の裏に隠していた優しさを表に出せるようになり、学校でも本当の自分でいることを選ぶ。

7人は、鏡の国の城で得た経験を糧に、それぞれの生きづらさを克服し、自分らしく生きていく道を歩み始めた。

「また、いつか、みんなに会いたいな」

こころは、鏡の国の城で過ごした日々を思い返し、7人の仲間たちとの再会を願うのだった。

エピローグ

喜多嶋先生は、こころのその後の成長を見守っていた。

「こころさん、あなたは、今、とても輝いていますよ。鏡の国の経験が、あなたを成長させてくれたのですね」

こころは、喜多嶋先生の言葉に微笑み、心の中で思う。

「先生、ありがとう。私、今、自分らしく生きています。鏡の国の7人に会えたおかげです」

「鏡の国の7人(セブン)」は、こころの心の中に永遠に生き続けていた。