桜葉の季節 ~青春の可能性~

Act 1: 芹澤清、先輩に相談を持ちかける

暖かな春の陽気の中、桜の花びらが舞う季節。都立青山高校の校門前で、僕は後輩のキヨシこと芹澤清と待ち合わせをしていた。キヨシが僕のことを先輩と呼ぶのは、単に歳の差だけが理由ではない。彼は今、この青山高校の定時制に通いながら、さまざまなことに挑戦している高校生なのだ。

「先輩、お待たせしました!」

小柄な体躯に銀縁の眼鏡をかけ、制服の上から黒いジャンパーを羽織ったキヨシが、息を切らせて駆けてきた。

「悪いな、待ったか? 最近は暖かくなってきたな。桜も満開だ」

「はい! 桜が咲くと、春が来たって感じがしますね。ところで、今日はよろしくお願いします。僕、先輩に相談したいことがあって……」

キヨシは真剣な眼差しで、切り出した。

「なんだ? 遠慮なく言ってみろ。僕は今はただの素人探偵だが、君の力になれるなら喜んで助けるよ」

僕は探偵修業の経験がある。かつて「ボス」と呼ばれた師匠から教わったことを思い出しながら、今でも時折、持ち込まれる相談事などを引き受けている。

「実は……」

キヨシは少し躊躇いがちに、話し始めた。

「僕、霊感商法の事件に巻き込まれてしまったんです。蓬萊倶楽部(ほうらいくらぶ)っていう団体があって、そこに知らず知らずのうちに協力してしまっていたんです。でも、最近になって、彼らのやり方が間違っているのではないかと疑い始めて……。先輩、蓬萊倶楽部について調べてもらえないでしょうか?」

「蓬萊倶楽部か……。わかった、調べてみよう。君がそこまで言うなら、ただ事ではないだろう。ボスから教わったことを思い出しながら、調査してみるよ」

僕はキヨシの熱意に押され、事件の調査を引き受けることにした。

Act 2: 蓬萊倶楽部の実態調査

キヨシから聞いた蓬萊倶楽部の情報はごくわずかだった。霊感商法を行っているらしいこと、キヨシが彼らの集会に何度か参加したこと、そしてキヨシが彼らのやり方に疑問を持ち始めたこと。

「とにかく、蓬萊倶楽部の集会に潜入してみよう。そこで何か手がかりが見つかるかもしれない」

僕はボスの教えを思い出しながら、調査を開始した。

「潜入調査か……。ボスもよく言っていたな。『とにかく観察しろ。意味は考えなくていい。見たことをそのまま頭に叩き込んでおけ。そうすればお前の頭がそのまま貴重な資料となる』って」

僕はキヨシを伴い、蓬萊倶楽部の集会所へと向かった。そこは住宅街の一角にある、こじんまりとした建物だった。

「入ってみよう。君は僕の弟ということにしておこう。何かあったら、すぐに逃げられるようにしておく」

僕たちは建物の中に入った。そこには、さまざまな年齢や職業の人たちが集まっていた。

「思ったより普通の人々だな。怪しい雰囲気はあまりない。だが、油断はできない」

僕たちは席に着き、集会が始まるのを待った。

「まずは、彼らの話を聞いてみよう。そして、観察するんだ。見たままを頭の中に記憶しておくんだ」

集会が始まり、蓬萊倶楽部の代表者らしい人物が語り始めた。

「皆さん、こんにちは。私たちは、この世とあの世の橋渡しをします蓬萊倶楽部です……」

Act 3: キヨシの誤解

蓬萊倶楽部の集会は、思っていたより穏やかな雰囲気だった。彼らは、この世とあの世の橋渡しをすると語り、霊感商法を行っているようには見えなかった。

「先輩、どう思いますか?」

集会が終わり、建物を出ながら、キヨシが尋ねた。

「うーん、確かに霊感商法を行っているようには見えなかったな。もしかしたら、君の早とちりだったのかもしれない」

「でも、彼らの話を聞いていると、何か違和感を感じるんです。もしかしたら、僕が何か見落としているのかもしれませんが……」

「そうかもしれない。だが、今のところ、悪徳集団であるという証拠は見つからない。もう少し調査を続けてみよう」

僕たちは、その後も何度か蓬萊倶楽部の集会に参加し、観察を続けた。しかし、やはり悪徳集団であるという確証は得られなかった。

「キヨシ、君が蓬萊倶楽部に手を貸していたことは許されないことだが、君のバイタリティーは素晴らしいと思うんだ」

ある夜、僕はキヨシと一緒にラーメンを食べながら、話をした。

「君が人殺しの片棒を担いだとしても、君の人格を全否定はしない。人はよく、『好き/嫌い』と『良い/悪い』を混同するが、僕はきちんと区別する。君が犯した過ちと、君のバイタリティーは別問題だ。僕は君のそういうところに惹かれるんだ」

「先輩……」

キヨシは、少し涙ぐんでいた。

「君も簡単に人生をあきらめるな。七十年生きても知らないことはたくさんある。自分の適性や趣味に合ったことがまだ見つかるかもしれない。桜の花も葉も、どちらも美しい。人生の季節を楽しみ、可能性を信じて生きよう」

Act 4: 真の黒幕登場

蓬萊倶楽部の調査を続けていると、思わぬ事実が明らかになった。蓬萊倶楽部を隠れ蓑にしている別の詐欺集団が存在していたのだ。彼らは、蓬萊倶楽部の名前を利用して、高額な霊感商法を行っていた。

「やはり、君の勘は正しかった。蓬萊倶楽部は悪徳集団ではなかったが、彼らを隠れ蓑にした本当の黒幕がいたんだ」

僕はキヨシに真実を告げた。

「ということは、僕が疑っていたのは間違っていなかったんですね。でも、本当の黒幕は別にいたなんて……」

「ああ、君の観察力は素晴らしい。だが、安心するのはまだ早い。真の黒幕を追い詰めなければ、この事件は解決しない」

「はい! 僕も最後まで戦います」

キヨシは決意に満ちた表情で応えた。

Act 5: 驚きの真実

僕とキヨシは協力して、真の黒幕を追い詰めた。彼らのアジトに乗り込み、証拠を押さえていく。

「これで終わりだと思ったか? 君たちは私を捕らえたが、この程度で終わるとは思わないことだ」

黒幕は高笑いをしながら、続けた。

「私たちは、蓬萊倶楽部を利用していたに過ぎない。この国には、もっと大きな闇の力が存在している。私は、その一部でしかないのだよ」

「この国には、もっと大きな闇の力……?」

キヨシは驚きの表情を浮かべた。

「そう、この国は君たちが思っているより腐敗している。私は、その一部を担っていたに過ぎない。だが、私の逮捕ですべてが終わるわけではない。この国の闇は、もっと深いところまで根を張っているのだ」

「なんだと……」

僕は衝撃を受けた。この国の闇は、僕たちが想像していたよりも深かったのだ。

「可能性を信じろ。たとえ、この国に深い闇があったとしても、君たちには未来がある。桜の花が咲くように、葉が茂るように、君たちの未来は輝いている。その可能性を信じて生きろ」

黒幕は、僕たちに不敵な笑みを浮かべながら、そう言い残した。

エピローグ

黒幕の言葉は、僕たちに衝撃を与えた。この国には、まだまだ知らない闇が存在するのかもしれない。

「先輩、僕たちはこれからどうすればいいんでしょう?」

キヨシは不安げな表情で尋ねた。

「今回の事件は終わった。だが、僕たちの挑戦はまだまだ続く。ボスも言っていた。『七十歳になっても、挑戦し続けることはできる。可能性を信じれば、それが現実になる』と」

「はい……」

キヨシは、桜の花びらが舞う空を見上げた。

「桜葉の季節のように、人生にもさまざまな季節がある。花の季節も、葉の季節も、どちらも美しい。その可能性を信じて、生きていこう」

僕はキヨシと固く握手を交わした。

「はい! 先輩、これからもよろしくお願いします!」

キヨシは力強く応えた。

「ああ、これからも一緒に挑戦していこう」

僕たちは、新たな挑戦に向けて歩き出した。桜の花びらが舞う中、僕たちの青春の季節はまだまだ続くのだった。

[THE END]