ハサミ男の謎:自殺未遂者の挽歌

第1章 自殺未遂者

静かな寝室で、一人の青年がベッドに横たわり、天井を眺めていた。彼の名は奏汰(そうた)、25歳。無気力でやるせない日々を送っている。

「死にたい」

奏汰は呟いた。それは彼にとって、もはや口癖のようなものだった。生きたいという願望が湧かない。ただ虚無感に支配され、このまま消えてしまいたい。

カウンセリングルーム。奏汰は医師の前に座っていた。

「また自殺未遂をしたそうですね」

冷静な口調で医師は問いかける。奏汰は黙って頷いた。

「なぜ未遂に終わるのですか?本当に死にたいのでしょうか?」

医師の問いに、奏汰は答える。

「...死にたい。でも、怖いんだ。死ぬのが怖いっていうより、死ぬために何か行動を起こすのが怖い」

「死にたいのであれば、それは他人を支配しようとする行為だということを理解していますか?あなたは自分の思い通りに周囲を動かそうとしている。死ぬことで、誰かに悲しんでもらいたい、自分を止めようと必死になってもらいたい。それは非常に利己的な行為です」

医師の言葉に、奏汰は動揺した。

「僕は...ただ...」

「あなたは自分の行為に疑問を抱いたことはありませんか?なぜ死にたいのか、その理由を真剣に考えたことは?」

奏汰は言葉を失った。確かに、死にたいと口にしてはいるが、なぜ死にたいのかは考えたことがなかった。ただ、この虚無感から逃れたい一心で、安易に死を望んでいた。

第2章 村木との出会い

奏汰は医師の指摘に動揺しつつも、カウンセリングを続けていた。そんな中、彼は一人の男性と出会う。村木と名乗るその男は、ある事件について調べており、奏汰に協力を求めてきたのだ。

「君は自殺未遂を繰り返しているそうだね」

村木は直球な物言いをした。奏汰は警戒しながらも、この男に興味を引かれた。

「...ええ。でも、最近はカウンセリングを受けていて...」

「自殺願望は消えたのか?」

「...いえ。でも、最近は死ぬために行動を起こすのが怖くて...」

村木はニヤリと笑った。

「死ぬのが怖いんじゃない。死ぬために何かするのが怖い。面白いね、君は」

「...?」

「死ぬこと自体は怖くない。ただ、死ぬための行為が怖い。それはつまり、君はまだ生きていたいということだ」

村木の言葉に、奏汰は複雑な表情を浮かべた。

「...生きていたいって...どういうことですか?」

「君は死ぬための行為が怖いという。それは、生きることに対してまだ望みがあるということだ。死ぬための行為が怖いというブレーキがかかっている。つまり、君はまだ生きようとしている」

村木の独自の物の見方に、奏汰は戸惑いを隠せない。

一方、世間では連続美少女殺人事件が発生していた。犯人は「ハサミ男」と呼ばれ、美しい少女を狙っては、ハサミで髪を切り落とすという猟奇的な手口で殺人を繰り返していた。

奏汰は村木からこの事件について聞き、緊張感が高まるのを感じた。

「君はこの事件をどう思う?」

村木の問いに、奏汰は答える。

「...怖いよ。無差別に殺人を繰り返すなんて...」

「確かに怖い。だが、このハサミ男はただ無差別に殺人を犯しているわけではない」

村木はそう言うと、捜査資料を奏汰に見せた。そこには、ハサミ男の手口や被害者の情報が細かく記されていた。

「この事件にはある共通点がある」

村木は捜査資料を指さした。

「被害者は皆、髪が長く美しい少女だ。そして、ハサミ男は彼女たちの髪を切り落としてから殺している。この行為に何らかの意味があるはずだ」

奏汰は資料に目を凝らしながら、ハサミ男の動機に思いを巡らせた。

第3章 無動機殺人

奏汰は村木と共にハサミ男事件を調べるうちに、この事件が「無動機殺人」と呼ばれるものではないかという疑念を抱くようになる。

「無動機殺人...?」

奏汰は村木に尋ねた。

「そう。無動機殺人とは、犯人に明らかな動機が見当たらない殺人事件のことだ。通常、殺人事件には犯人の動機が存在するが、無動機殺人の場合は、犯人が殺人を犯す明確な理由が見つからない」

「でも、ハサミ男は美しい少女の髪を切り落としてから殺しています。そこに何らかの動機があるのでは?」

「確かに、ハサミ男は被害者の髪に執着しているようだ。だが、それはあくまでも手段かもしれない。彼の真の目的は別にあるのではないか?」

村木の言葉に、奏汰はハサミ男の動機を考え始めた。なぜ、美しい少女の髪を切り落とす必要があるのか。そこにどんな意味があるのか。

「君はどう思う?ハサミ男の動機について」

村木の問いに、奏汰は自分の考えを述べた。

「...ハサミ男は、美しい少女の髪を切り落とすことで、彼女たちの美しさを破壊したいと思っているのではないか。髪は女性の象徴とも言える。それを奪うことで、彼は少女たちの美しさを壊し、支配しようとしているのでは...」

村木は奏汰の意見に興味深そうな表情を浮かべた。

「面白い考え方だ。では、なぜ彼は少女たちを支配したいと思うのか。そこにこそ、ハサミ男の真の動機があるのかもしれない」

奏汰はハサミ男の動機を追い求めるうちに、自身の自殺願望と向き合うことになる。なぜ、自分は死にたいのか。その根底にあるものは何なのか。

「死にたいという願望は、他人を支配したいという願望と似ているのかもしれない...」

奏汰は自身の心の中に潜む闇を覗き込み始めた。

第4章 ハサミ男の正体

捜査が進むにつれ、ハサミ男の正体に迫る手がかりが徐々に明らかになっていく。

ハサミ男の犯行は、あるパターンに従っている」

村木は捜査資料を広げながら語った。

「彼は特定の地域で連続して殺人を犯し、その後、しばらくの間、犯行を止める。そして、また別の地域で殺人を始める。まるで、計画的に移動しながら犯行を行っているかのようだ」

「それは...ハサミ男が特定の場所にこだわりを持っているということですか?」

「そうかもしれない。あるいは、何かから逃げているのかもしれない」

奏汰はハサミ男の行動に疑問を抱いた。

「逃げている...?何かから...」

「あくまでも仮説だが、ハサミ男は過去に何らかのトラウマを抱えている可能性がある。そのトラウマと関連する場所から逃げているのかもしれない」

捜査が進展する中、ハサミ男の新たな被害者が発見された。しかし、今回の被害者は少し様子が違った。

「今回の被害者は、ハサミ男が髪を切り落とす前に殺されていた」

捜査本部で、村木は捜査員たちに説明した。

「これはハサミ男の犯行パターンから外れている。彼はいつも、髪を切り落としてから殺していた。今回はなぜ、髪を切らずに殺したのか...」

捜査員の一人が疑問を口にした。

「もしかすると、犯行を急ぐ必要があったのかもしれない」

村木は捜査員を見回した。

「あるいは...」

奏汰は捜査資料を眺めながら、あることに気づいた。

「今回の被害者は、他の被害者たちとは少しタイプが違う」

「タイプが違う...?」

村木は奏汰を見た。

「はい。今までの被害者は、皆、黒髪のストレートのロングヘアでした。しかし、今回の被害者は茶髪のウェーブヘアです」

「...なるほど。ハサミ男は特定のタイプの少女を狙っていたのかもしれない」

捜査が進むにつれ、ハサミ男の犯行パターンや動機に徐々に光が当てられていく。そして、遂にハサミ男の正体が明らかになろうとしていた。

第5章 真相と決断

ハサミ男の正体が判明する時が来た。捜査本部は緊張感に包まれていた。

ハサミ男の正体は...」

村木は捜査員たちに告げた。

「君たちも知っている人物だ。彼は...」

その時、捜査本部にハサミ男の犯行を告発する手紙が届いた。

「...手紙?」

捜査員の一人が手紙を読み上げた。

「私はハサミ男です。これまでの殺人は私が行いました。しかし、私はもう殺人を犯しません。なぜなら...」

手紙には、ハサミ男の犯行を止めた理由が書かれていた。

「...私が殺人を犯したのは、ある人物に操られていたからです」

捜査本部は騒然となった。

「操られていた...?」

村木は手紙を読み返した。

「操っていた人物とは誰だ?」

捜査員たちが騒然とする中、奏汰はある人物を思い浮かべていた。

「...村木さん」

「何だ、奏汰くん」

ハサミ男を操っていた人物...それは...」

奏汰は村木を見つめた。

「...まさか、君は...」

「...僕は、ハサミ男を操っていた人物について知っているかもしれません」

奏汰は自身の口から、ハサミ男の真相を語り始めた。

ハサミ男を操っていたのは...僕です」

捜査本部は騒然となった。

「...君が...?」


村木は驚きを隠せない。

「はい...ハサミ男は、僕の別人格でした」

奏汰は自身の自殺願望と向き合いながら、ハサミ男の真相を語り続けた。

「...僕は、死にたいという願望を抱えながら、同時に生きたいという願望も持っていました。その矛盾する願望が、ハサミ男という別人格を生み出したのです」

奏汰は自身の闇と向き合い、ハサミ男の真相を明らかにした。そして、彼は自身の人生についても決断を下す。

「...僕は、生きようと思います」

奏汰は医師や村木との出会いを通して、自身の自殺願望と向き合い、成長していた。

「死にたいという願望は、他人を支配したいという願望と似ている。しかし、それは本当の自分ではなかった。僕は、本当の自分を取り戻し、生きていこうと思います」

奏汰は前を向いて歩き出す。