夏休みの消失

序章

泰造が担任の先生からS君の家を訪ねるよう頼まれたのは、終業式の日のことだった。

「泰造君、いいかな。S君がここ最近ずっと学校を休んでいるらしいんだ。君たち仲が良かったよね。彼の家まで行って、体調とか大丈夫そうか見てきてくれないか」

泰造は先生の依頼に内心面倒に思いながらも、友人の安否が気になったので、渋々承知した。

S君の家は学校からそう遠くなく、泰造は自転車を走らせた。S君の家の前まで来ると、彼は不吉な予感に襲われた。S君の家からはカーテンが締められ、普段は聞こえるはずのテレビの音や家族の話し声も聞こえない。

泰造が玄関のチャイムを鳴らすと、しばらくしてS君の母親が出迎えた。

「あぁ、泰造君。いらっしゃい。Sが学校を休んでいることを学校から聞いて、心配して来てくださったのね。Sはね、今自室で休んでいるの。ちょっとだけ待ってもらえる?」

S君の母親は泰造を部屋に通し、S君の部屋へ向かった。泰造はS君の部屋の前で待っていたが、なかなか戻ってこない母親を不思議に思い、そっとドアを開けた。その瞬間、泰造は凍りついた。

S君が、部屋の中央に吊るされていたのだ。その首には、深い紅の縄が食い込んでいた。

「S君!」

泰造は叫び、S君の身体を支えるために駆け寄った。しかし、次の瞬間、信じられないことが起こった。S君の死体が、目の前で忽然と消えてしまったのだ。

「何だ……今のは……」

泰造は混乱していた。S君の母親が部屋に駆け込んできた。

「どうしたの、泰造君? Sは? あぁ、きっと寝室で寝ているわ。熱でフラフラみたいだから、あまり刺激しないであげてね」

泰造は、S君の母親の言葉を聞き、何も言えず、ただ頷いた。

――S君は死んでいた。なのに、その死体は消えてしまった。

泰造は、この謎を解き明かすため、そしてS君の死にまつわる無念を晴らすため、夏休みを利用して調査を始めるのだった。

第一章

泰造は、S君の死について考えていた。首吊りで死んでいたはずなのに、なぜ死体は消えてしまったのか。もしかして、S君は……。

「兄さん、おはよう」

泰造の妹、ミカが朝食の準備をしている。ミカは泰造と同じ中学校に通う1年生だ。

「おはよう、ミカ。あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「なぁに? 兄さん、珍しいね。いつも朝から話しかけてこないのに」

ミカは不思議そうに泰造を見つめた。

「実はさ、終業式の日にS君の家に行ったんだ。先生に頼まれて」

「え? S君って、兄さんのクラスメイトの? どうして? 彼は何か困ってたの?」

「それが……」

泰造は、S君が首吊り死体で発見されたこと、そして死体が消えてしまったことをミカに話した。ミカは目を丸くした。

「そんな……信じられない。でも、もしかしたら、S君は本当は生きていて、何らかの理由で死んだふりをしたとか?」

「いや、首に縄の跡があったから、生きているとは思えない。でも、なぜ死体が消えたのかは謎だ」

「兄さん、怖いわ。もしかして、S君は殺されたの?」

「それも考えられる。でも、S君を殺す動機がある人物が思い当たらないんだ」

「学校で何かトラブルがあったとか?」

「S君は目立たないタイプだったからな。特に問題を起こしているようには見えなかった」

「兄さん、S君と仲良かったんでしょ? 誰かS君の敵になりそうな人、思い当たる人はいないの?」

泰造は少し考えた。確かに、S君は目立たないタイプだったが、クラスメイトから嫌がらせを受けているところを見たことはなかった。

「うーん……」

「もしかして、思い当たる節があるの?」

ミカは泰造の様子に気づき、尋ねた。泰造は少し悩んだが、ミカに話すことにした。

「実は、S君が死んでいた部屋で、変なものをみつけたんだ」

「変なもの?」

「うん。それは、小さな瓶だった。中に女郎蜘蛛が入った瓶だ」

「女郎蜘蛛? なんでS君の部屋にそんなものが?」

「それがわからないんだ。もしかしたら、S君の死と関係があるかもしれない」

「兄さん、その瓶、まだ持ってるの?」

「あぁ、S君の母親に気づかれなかったから、まだ持ってる。でも、なぜS君がそんなものを……」

「もしかしたら、S君は誰かに恨みを買っていたのかも」

「恨み?」

「そう。女郎蜘蛛は毒蜘蛛だから、その毒で誰かを殺そうとしていたとか」

「S君が?」

泰造は信じられないという表情をした。

「いや、S君はそんなことするような子じゃない。それに、もし本当に誰かを殺そうとしていたのなら、なぜ自分も死ななければならないのだろう?」

「そこなのよ。そこが謎なの」

ミカは真剣な表情で泰造を見つめた。

「兄さん、その瓶、見せて」

「でも、なぜ?」

「もしかしたら、その瓶に何かヒントがあるかもしれないじゃない」

泰造は少し考えた後、自分の部屋から瓶を持ってきてミカに渡した。ミカは瓶をじっと見つめた。

「ねぇ、兄さん。この瓶、どこで見つけたの?」

「S君の部屋のベッドの下だった」

「ベッドの下……。S君が隠したのね」

「うん。でも、なぜ隠さなければならなかったんだろう?」

「それがわかれば、S君が何のために女郎蜘蛛を持っていたのかもわかるかも」

「確かに……」

「ねぇ、兄さん。S君の部屋、もう一度調べてみない?」

「でも、S君の母親がいて無理だよ」

「夜ならどう? 誰も気づかないわ」

「夜か……」

泰造は少し考えた後、頷いた。

「わかった。今夜、S君の部屋を調べてみよう」

第二章

「ただいま」

泰造が家に帰ると、母が夕食の準備をしていた。

「お帰りなさい。今日はS君のところへ行ってきたの?」

泰造は母親の言葉に驚いた。

「え? どうしてそれを?」

「お母さんね、先生から連絡がきてS君のことを聞いたとき、思ったのよ。――あなたが犯人だって」

泰造は母親の言葉に衝撃を受けた。

「僕が……犯人?」

「そう。あなたはS君の家に行って、そこで何らかの理由で彼を殺した。その後、死体を隠した。そう考えたの」

「そんな……僕がS君を殺す理由なんてないよ」

「でも、あなたはS君の家に行った。そして、死体を見つけた。それだけでも、あなたが容疑者になるには十分な理由よ」

「でも、僕はS君のことが心配だったから行ったんだ。それに、死体は消えてしまった」

「死体が消えた? どういうこと?」

泰造は、S君の死体が見えたのに、突然消えてしまったことを母親に話した。母親は泰造の話を真剣な表情で聞いていた。

「ふーん……。それは不思議な話ね。でも、あなたがS君を殺したとは思えないわ」

「本当だよ。僕はS君のことが心配だったんだ」

「わかっているわ。でもね、お母さんは思うの。もしかしたら、あなたが見た死体は、本当は存在しなかったのではないかと」

「どういうこと?」

「もしかしたら、あなたは『物語』を見たのではないかと」

「『物語』?」

「そう。『物語』よ。あなたは、S君が死んでいるという『物語』を見た。でも、それは現実ではなかった」

「そんな……」

「お母さんはね、あなたが小さい頃から、空想癖があることを知っているの。あなたはよく『物語』を見ていたわね」

「それは……」

確かに、泰造は小さい頃から空想癖があり、「物語」を見ることがあった。しかし、今回のS君の死は、はっきりと目撃した。現実のことだったはずだ。

「でも、今回は違うよ。僕ははっきりと見たんだ」

「わかっているわ。でもね、お母さんは思うの。もしかしたら、あなたは『物語』の世界に入り込みすぎて、現実と混同しているのではないかと」

「そんな……」

泰造は混乱していた。もしかしたら、母親の言うように、自分は「物語」の世界に入り込みすぎているのだろうか。

第三章

泰造は、S君との関係を振り返っていた。

S君とは、小学校からの付き合いだった。同じクラスになったことはなかったが、中学校に入ってから、同じ委員会に所属したことをきっかけに仲良くなった。

S君は、目立たないタイプで、いつも静かに本を読んでいるような少年だった。泰造は、そんなS君のことが少し気になっていた。

ある日、泰造はS君が一人でいるところを見かけた。S君は、誰もいない教室で、何か小さな瓶をじっと見つめていた。

「S、何してるんだ?」

泰造が声をかけると、S君はびくっとして、瓶を隠した。

「あぁ、泰造か。別に何でもないよ」

「隠してるってことは、何かあるんだろ?」

泰造はS君の様子が気になり、からかうように言った。S君は少し悩んだ後、瓶を泰造に見せた。

「これ、女郎蜘蛛なんだ」

「女郎蜘蛛?」

泰造は瓶の中を覗き込んだ。そこには、赤い模様の入った黒い蜘蛛がいた。

「へぇ、どこで見つけたんだ?」

「学校の裏山で。この蜘蛛、毒があるらしいんだ」

「へぇ……」

泰造は興味津々で瓶を覗き込んだ。S君は少し不安そうな表情をしていた。

「ねぇ、泰造。この蜘蛛、怖くない?」

「怖い?」

「うん。この蜘蛛、何か怖いんだ。見ていると、ぞくぞくするんだ」

「S、お前、怖がりだったのか?」

泰造はからかうように言った。S君は少しむっととした表情をした。

「違うよ。怖いものなんてないよ。ただ、この蜘蛛は何か違う気がするんだ」

「違う気がする?」

「うん。この蜘蛛、何か企んでる気がするんだ」

「企んでる?」

泰造はS君の言葉に驚いた。

「そう。この蜘蛛、ただの蜘蛛じゃない。何か別の生き物なんじゃないかって思うんだ」

「S、お前、怖いものでも見たのか?」

泰造はS君をからかうのをやめ、真剣な表情で尋ねた。S君は少し悩んだ後、泰造に話し始めた。

「泰造、お前に話してもいいか? ちょっと変な話だけど」

「あぁ、もちろん」

S君は、泰造に「物語」を語り始めた。それは、女郎蜘蛛が人間に呪いをかけ、操るという恐ろしい内容だった。泰造は、S君の「物語」に魅了された。

第四章

泰造は、「物語」について考えていた。S君は、なぜ自分に「物語」を語ってくれたのだろうか。もしかしたら、S君は「物語」の世界に入り込みすぎて、現実と混同していたのだろうか。

泰造自身も、「物語」の世界に惹かれる傾向があった。小さい頃から、空想癖があり、「物語」を見ることがあった。しかし、S君の「物語」は、何か違う気がした。

「物語」は、現実とは異なる世界だ。しかし、もしかしたら、現実に影響を与えることもあるのではないか。S君の死は、「物語」と関係があるのだろうか。

泰造は、S君の「物語」を思い出していた。女郎蜘蛛が人間を操るという内容だった。もしかしたら、S君は女郎蜘蛛に操られていたのだろうか。

「兄さん、ぼーっとしてないで手伝ってよ」

ミカの声で、泰造は我に返った。

「あぁ、悪い。ちょっと考え事してた」

「またS君のこと?」

「あぁ。もしかしたら、S君の死は『物語』と関係があるかもしれない」

「『物語』?」

「あぁ。S君は、女郎蜘蛛が人間を操る『物語』を語ってくれたんだ。もしかしたら、S君は女郎蜘蛛に操られていたのかも」

「女郎蜘蛛に操られて、死んだってこと?」

「そういうこと。もしかしたら、S君は女郎蜘蛛に操られて、自分で首を吊ったのかも」

「そんな……」

ミカは信じられないという表情をした。

「でも、なぜ女郎蜘蛛がS君を操るの?」

「そこが謎なんだ。もしかしたら、S君は誰かに恨みを買っていたのかも」

「S君が?」

「あぁ。もしかしたら、S君は誰かを殺そうとしていたのかも」

「でも、S君が殺そうとしていた相手が、なぜ女郎蜘蛛を使うの?」

「そこなんだよな……」

泰造は悩んでいた。S君の死は、「物語」と関係があるのか。それとも、現実世界での出来事なのか。

「ねぇ、兄さん。もしかして、S君は『物語』の世界に入り込みすぎて、現実と混同していたんじゃないの?」

「ミカ、お前……」

泰造はミカの言葉に驚いた。

「お母さんが言ってたの。兄さんが小さい頃から『物語』を見ていたって」

「ミカ……」

「もしかしたら、S君も『物語』の世界に入り込みすぎて、現実と混同していたんじゃないかなって」

「確かに……」

泰造は、母親の言葉を思い出した。もしかしたら、S君は「物語」の世界に入り込みすぎていたのかもしれない。

「でも、S君の死は現実のことだよな。死体ははっきりと見たんだ」

「でも、死体は消えたんでしょ?」

「確かに……」

泰造は混乱していた。もしかしたら、S君の死は、「物語」と現実が混在した出来事なのかもしれない。

第五章

泰造は、S君の部屋を訪れていた。ミカと一緒に、S君の部屋を調べるために来たのだ。

「兄さん、S君の部屋って、こんなに暗かったっけ?」

ミカは部屋の暗さに不思議そうな表情をした。

「カーテンが閉まってるからな。いつもはもっと明るいんだけど」

「でも、S君のお母さん、気づかないのかな?」

「もしかしたら、気づいてるけど、開けてないのかも」

「どうして?」

「もしかしたら、S君の死と関係があるかもしれないから」

「S君の死とカーテンが?」

「あぁ。もしかしたら、S君はカーテンを閉めたまま、誰にも邪魔されずに死にたかったのかも」

「そんな……」

ミカは悲しそうな表情をした。

「でも、S君の死は謎だらけだ。もしかしたら、カーテンにも何かヒントがあるかもしれない」

「兄さん、S君のベッドの下から見つけた瓶、持ってきたの?」

「あぁ、持ってきた」

泰造は、女郎蜘蛛の入った瓶をミカに渡した。ミカは瓶をじっと見つめた。

「ねぇ、兄さん。この蜘蛛、生きてるのかな?」

「生きてる?」

「うん。もしかしたら、この蜘蛛がS君の死と関係がある「かもしれないじゃない。もしかしたら、この蜘蛛がS君を操って、死に追いやったのかも」

「操る?」

「うん。泰造、お兄ちゃんが言ってたでしょ。S君が語ってくれた『物語』のこと。女郎蜘蛛が人間を操るって」

「あぁ……」

泰造は、S君が語ってくれた「物語」を思い出していた。

「ねぇ、兄さん。もしかして、この蜘蛛がS君を殺した犯人とか?」

「ミカ……」

泰造は、ミカの言葉に衝撃を受けた。

「もしかしたら、この蜘蛛がS君を操って、自分で首を吊るように仕向けたのかも」

「そんな……」

泰造は、ミカの言葉を信じたくなかった。しかし、S君の死と女郎蜘蛛を結びつけるには、あまりにも出来すぎていた。

「でも、なぜ女郎蜘蛛がS君を操るのだろう? そこがまだわからない」

「もしかしたら、S君が誰かを殺そうとしていたとか?」

「いや、S君はそんな子じゃない。それに、女郎蜘蛛がS君を操る動機にはならない」

「じゃあ、なぜ……」

ミカは、瓶の中の蜘蛛をじっと見つめた。

「あ!」

「どうした、ミカ?」

「この蜘蛛、動いた!」

「動いた?」

泰造は、ミカが指差す方を見た。すると、そこには、小さな女郎蜘蛛がいた。しかし、その蜘蛛は、先ほどまでいた場所から動いていなかった。

「もしかして、この蜘蛛、生きてなかったのかも」

「生きてなかった?」

「うん。もしかしたら、この蜘蛛は、S君が死んだ後にここに置かれたのかも」

「置かれた?」

「うん。もしかしたら、S君を殺した犯人が、この蜘蛛を置いていったのかも」

「犯人が?」

「そう。もしかしたら、犯人は、S君が女郎蜘蛛に操られて死んだと思わせたかったのかも」

「そんな……」

泰造は、ミカの言葉に混乱していた。しかし、ミカの言葉は的を射ていた。

「ねぇ、兄さん。もしかして、この蜘蛛を置いた犯人は、S君が『物語』の世界に入り込みすぎていたことを知っていたのかも」

「『物語』の世界を?」

「うん。もしかしたら、犯人は、S君が『物語』の世界に入り込みすぎて、現実と混同していることを知っていた。だから、S君が女郎蜘蛛に操られて死んだと思わせたかったのかも」

「そんな……」

泰造は、ミカの言葉に衝撃を受けていた。もしかしたら、S君の死は、自分が見た「物語」と関係があるのかもしれない。

「でも、犯人は誰なんだ?」

「そこがまだわからない。でも、この蜘蛛を置いた犯人は、S君が『物語』の世界に入り込みすぎていたことを知っているはず」

「『物語』の世界に入り込みすぎていたことを知る人物……」

泰造は、S君の周囲の人物を思い浮かべた。そして、ある人物が浮かび上がった。

「ミカ、もしかしたら犯人は……」

その時、突然、S君の部屋のドアがノックされた。

「誰だろう?」

ミカは、ドアに向かって声をかけた。

「私です。Sの母親です」

「S君のお母さん!」

泰造とミカは、慌てて瓶を隠した。そして、泰造がドアを開けた。

「こんばんは。Sが亡くなって、大変お世話になりました」

「いえ……」

泰造は、S君の母親の言葉に困惑した。

「お母さん、何か?」

「実は、お願いしたいことがあるの。Sの部屋に入らせてくれないかしら」

「部屋に?」

「えぇ。Sの部屋を、元の状態に戻したいと思って。お願いできますか?」

泰造は、S君の母親の依頼に困惑した。しかし、断る理由も見つからなかった。

「わかりました。お入りください」

S君の母親は、泰造とミカを部屋に通した。そして、S君の母親は、部屋の中をじっと見つめた。

「お母さん、何か?」

「いえ……。この部屋、何か変ね」

「変?」

「えぇ。何か、違う気がするの」

「違う?」

「そう。何か、物足りないというか……」

「物足りない?」

「えぇ。何か、大切なものが足りない気がするの」

「大切なもの?」

「えぇ。もしかしたら、Sが隠していたものかもしれないわ」

「S君が隠していたもの?」

「えぇ。もしかしたら、Sは、誰にも見られたくないものを持っていたのかも」

「誰にも見られたくないもの?」

「えぇ。もしかしたら、それがSの死と関係があるのかも」

「S君の死と?」

「えぇ。もしかしたら、Sは、その大切なもののために死を選んだのかも」

「そんな……」

泰造は、S君の母親の言葉に衝撃を受けた。もしかしたら、S君は、誰にも見られたくないものを持っていたのかもしれない。そして、そのために死を選んだのか。

「ねぇ、泰造君。あなたは、Sが生きていたら、何をしてあげたかった?」

「生きていたら?」

「えぇ。Sが生きていたら、あなたは何をしてあげたかったのかしら」

「それは……」

泰造は、S君の母親の質問に困惑した。

「お母さん、なぜそんなことを?」

「ただ、気になったの。Sが生きていたら、誰が何をしてあげたかったのかしらって」

「それは……」

泰造は、S君が生きていたら、何をしてあげたかったのだろうと考えた。もしかしたら、S君が隠していたものを見つけて、一緒に「物語」について語り合いたかったのかもしれない。

「お母さん、僕は……」

その時、突然、S君の部屋の窓ガラスが割れた。

「きゃっ!」

ミカが悲鳴を上げた。泰造は、窓の方を見た。すると、そこには、S君が立っていた。

「S君!」

泰造は、S君の姿に驚いた。S君は、泰造を見つめると、口を開いた。

「泰造……。僕は、殺されたんだ」

「殺された?」

「えぇ。僕は、女郎蜘蛛に操られて、死を選んだんじゃない。殺されたんだ」

「誰に?」

「それは、わからない。でも、僕は殺された」

「S君……」

泰造は、S君の言葉に動揺していた。もしかしたら、S君は、本当に殺されたのかもしれない。

「泰造……。僕は、お前に『物語』を語ったよね」

「『物語』?」

「えぇ。女郎蜘蛛が人間を操る『物語』を」

「あぁ……」

「その『物語』は、現実になったんだ」

「現実に?」

「えぇ。女郎蜘蛛は、本当に人間を操ることができるんだ」

「そんな……」

泰造は、S君の言葉を信じたくなかった。しかし、S君の目は真剣だった。

「泰造……。お前は、僕が『物語』の世界に入り込みすぎていたことを知っているね」

「S君……」

「でも、それは、お前も同じだ」

「僕が?」

「えぇ。お前も、『物語』の世界に入り込みすぎている。現実と混同している」

「そんな……」

「泰造……。お前は、僕が死んだ後も、『物語』の世界に入り込みすぎている。現実を見ようとしない」

「そんなことは……」

「泰造……。目を覚ましてくれ。お前は、現実を見なければならない」

「現実を?」

「えぇ。お前は、僕の死を『物語』として見ている。でも、それは違うんだ」

「違う?」

「えぇ。僕の死は、現実なんだ。お前は、現実を受け入れなければならない」

「現実を……」

泰造は、S君の言葉に動揺していた。もしかしたら、自分は、「物語」の世界に入り込みすぎていたのかもしれない。

「泰造……。お前は、僕の死の真相を明らかにしなければならない。それが、僕の無念を晴らすことにもなる」

「S君……」

「泰造……。お前ならできる。僕を信じてくれ」

S君は、そう言うと、窓の外へと消えていった。

「S君!」

泰造は、S君を呼び止めた。しかし、S君の姿はもうそこにはなかった。

「兄さん……」

ミカが、泰造の腕を握った。

「S君は、殺されたんだよ。僕らは、彼の無念を晴らさなければならない」

「兄さん……」

ミカは、泰造の瞳をしっかりと見つめた。

「僕らは、S君の死の真相を明らかにしなければならない。それが、兄さんの『物語』を終わらせることにもなる」

「『物語』を終わらせる?」

「えぇ。兄さんは、S君の死を『物語』として見ている。でも、それは違う。S君の死は、現実なの。兄さんは、現実を受け入れなければならないの」

「現実を……」

泰造は、ミカの言葉に動揺していた。もしかしたら、自分は、「物語」の世界に入り込みすぎていたのかもしれない。

「兄さん、目を覚まして。S君の無念を晴らそう。それが、兄さんが現実世界に戻るための第一歩なの」

「ミカ……」

泰造は、ミカの瞳を見つめた。そこには、強い意志が宿っていた。

「わかったよ、ミカ。僕は、S君の死の真相を明らかにする。それが、僕の『物語』を終わらせることにもなるんだね」

「うん。兄さん、頑張ろう。S君のためにも」

「あぁ。S君、待っていてくれ。僕は、君の死の真相を明らかにするよ」

泰造は、S君の無念を晴らすために、そして自分の「物語」を終わらせるために、調査を続けることを決意した。

そして、夏休みが終わろうとしていた。泰造は、S君の死の真相を明らかにすることができたのだろうか。

「兄さん、夏休みも終わっちゃうね」

「あぁ。S君の死の真相は、まだ明らかにできていない」

「でも、兄さんは頑張ったよ」

「ミカ……」

「兄さんは、S君の死を『物語』として見るのをやめた。それは、大きな進歩だよ」

「ミカ……」

「兄さんは、現実を見ることができるようになった。それは、S君が望んでいたことだよ」

「S君が……」

「うん。S君は、兄さんが現実を見ることを望んでいた。兄さんが、『物語』の世界から抜け出すことを望んでいた」

「S君……」

「兄さん、S君はきっと喜んでいるよ。兄さんが現実を見ることができるようになったことを」

「ミカ……」

泰造は、ミカの言葉に励まされた。そして、S君の死の真相を明らかにすることを改めて決意した。

「ミカ、僕はS君の死の真相を明らかにする。それが、僕の『夏休みの消失』を終わらせることにもなるんだ」

「うん。頑張ろう、兄さん。S君のためにも」

泰造とミカは、手を握り合い、S君の死の真相を明らかにすることを誓った。

そして、2人は、S君の死の真相を明らかにするために、再び調査を始めるのだった。

「夏休みの消失」

~終章~