そして、誰もいなくなった

序章:孤島への招待

ロレンス・ウォーグレイヴ、70歳。かつて多くの犯罪者に裁きを下してきた元判事は、この日、一通の奇妙な招待状を受け取っていた。

"孤島の館へようこそ。あなたの罪はここで裁かれます。"

差出人は不明。しかし、好奇心と冒険心に駆られたウォーグレイヴは、この謎めいた招待に応じることにした。招待状に記された孤島「船乗りの島」に向かうため、彼は若い船員フレッド・ナラコットが操舵する船に乗り込んだ。

「この島に、オーエンという人物はいるかね?」

ウォーグレイヴが尋ねると、フレッドは首を振った。

「いいえ、その名前の人は知りません。この島はほとんど無人で、時折、船で訪れた人たちが滞在していくだけです。」

フレッドの説明によると、この島は本土から離れた小さな孤島で、現在は老執事トマス・ロジャーズとその妻エセルが管理しているという。

夕日が海を黄金色に染める中、船は島に近づいていった。

第1章:10人の集結と告発

ウォーグレイヴが館に到着すると、そこで彼はさらに9人の見ず知らずの男女と対面することになった。エミリー・ブレント、ヴェラ・クレイソーン、フィリップ・ロンバード、ジョン・マッカーサー将軍、アンソニー・マーストン、ジェニファー・ブレイディー、そして医師のエドワード・アームストロング。彼らは皆、ウォーグレイヴと同様に謎の招待状を受け取り、この孤島に招かれていた。

夕食の席が用意され、10人が揃ったところで、不気味なことが起こった。部屋に、どこからともなく声が響いたのだ。

「ようこそ、皆さん。あなた方10人は、ここに集められたのです。なぜなら、あなた方は皆、罪人だからです。」

声は10人それぞれの過去を暴き立てた。エミリーはかつて雇い人の命を間接的に奪い、ヴェラは元恋人とその妻を自殺に追いやり、フィリップは患者を死に追いやり遺産を横取りした。マッカーサー将軍は戦争で多くの命を奪い、アンソニーは飲酒運転で人を死なせ、ジェニファーは夫を自殺に見せかけて殺害した。そしてウォーグレイヴは、無実の罪で人を死刑判決に追いやった。

「10人の小さな兵隊さんが食事をしました。1人が死にました。9人の小さな兵隊さん、残されました。」

童謡「10人の小さな兵隊さん」の歌詞が、10人の運命を暗示していた。

第2章:最初の犠牲者

翌朝、10人は昨夜の出来事に動揺しつつも、フレッドの船で島を離れる準備をしていた。しかし、朝食の席で、1人の男性が突然苦しみだし、倒れた。それはアンソニー・マーストンだった。彼の皿には、青酸カリが入っていたのだ。

「10人の小さな兵隊さんが西向きに歩きました。1人が転びました。9人の小さな兵隊さん、帰りました。」

童謡の歌詞通り、10人のうちの1人が死んだ。残された9人は、疑心暗鬼に陥った。

第3章:疑心暗鬼と2人目の犠牲者

アンソニーの死に動揺を隠せない9人。彼らはフレッドに頼み、本土への無線連絡を試みたが、なぜか無線機は壊れていた。

「誰かが無線機を壊したに違いない!」

フィリップが叫んだ。

9人はお互いに疑いの目を向け始めた。そんな中、エミリーが1人で館の外を散歩しているところを、ヴェラが発見した。

「エミリー! 1人で歩くなんて危ないわ。誰かがあなたを狙っているかもしれないのに。」

ヴェラの言葉が予言となったのは、そのわずか1時間後だった。エミリーが部屋で死んでいるのが発見されたのだ。彼女の頭には、重いブロンズ像の破片が落ちていた。

「9人の小さな兵隊さんが庭でクレープを食べました。1人が毒を飲みました。8人の小さな兵隊さん、泣きました。」

童謡の歌詞が、再び現実となった。

第4章:フレッドの調査

フレッド・ナラコットは、2人の犠牲者が出たことで、この島の謎に満ちた出来事に興味を持ち始めた。彼は10人の関係性を探り、それぞれの過去や秘密を明らかにすることで、犯人を突き止めたいと考えた。

フレッドはウォーグレイヴに相談した。

「ウォーグレイヴさん。あなたは元判事だ。この島の10人の関係性や、それぞれの罪について何か気づいたことはないかね?」

ウォーグレイヴは、フレッドの熱意に心を動かされた。

「そうだな、フレッド君。確かに、この10人には、ある共通点がある。それは、皆が『無関係な人々の命を奪った』ということだ。」

ウォーグレイヴの言葉に、フレッドはさらに調査への意欲を燃やした。

第5章:明かされる秘密

フレッドの提案で、9人はそれぞれの過去や秘密を明かすことになった。

フィリップ・ロンバードは、医師として働いていた時に、誤診で患者の命を間接的に奪ったことを告白した。ジョン・マッカーサー将軍は、戦争で多くの命を奪っただけでなく、戦後に不正な武器取引に関わっていたことを明かした。

ヴェラ・クレイソーンは、元恋人の妻を自殺に追いやっただけでなく、その元恋人の財産を騙し取っていたことを告白した。ジェニファー・ブレイディーは、夫を自殺に見せかけて殺害しただけでなく、彼の財産も手に入れていたことを明かした。

そして、ウォーグレイヴは、かつて自分が下した判決で、無実の男性を死刑に追いやってしまったことを告白した。

「8人の小さな兵隊さんが海で泳ぎました。1人が溺れました。7人の小さな兵隊さん、震えました。」

童謡の歌詞が、9人の頭の中にこだましていた。

第6章:明かされる過去

フィリップ・ロンバードとジョン・マッカーサー将軍は、2人だけが知る秘密を共有していた。かつて、彼らは同じ部隊に所属していたのだ。

マッカーサー将軍。あなたと私は、あの戦争で同じ過ちを犯した。」

フィリップは、将軍に語りかけた。

「そうだ、ロンバード。私たちは、あの村を焼き払った。罪のない人々を、10人も殺してしまった。」

マッカーサー将軍は、過去の過ちを告白した。2人は、その罪を隠蔽し、誰にも明かさずにいた。

「7人の小さな兵隊さんが太陽に灼かれました。1人が焼けました。6人の小さな兵隊さん、震え上がりました。」

童謡の歌詞が、2人の告白と重なった。

第7章:犯人を追って

フレッドとウォーグレイヴは、生き残った6人からさらに情報を集めた。その結果、彼らはある仮説にたどり着いた。

「犯人は、この10人のうちの誰かではない。11人目の存在、つまり、この館の管理人であるトマス・ロジャーズが真犯人なのではないか。」

ウォーグレイヴは、そう結論づけた。

「トマス・ロジャーズは、この館の唯一の管理人であり、島のことを熟知している。そして、彼は、10人が島に来る前から、それぞれの罪を知っていたはずだ。」

フレッドは、その仮説を証明するため、トマスと対峙することにした。

第8章:最後の対決

フレッドは、トマス・ロジャーズと対峙した。

「トマスさん。あなたが、この事件の犯人ですか?」

フレッドの問いに、トマスは静かにうなずいた。

「なぜ、このようなことを?」

フレッドが問い詰めると、トマスは語り始めた。

「私には、娘がいました。彼女は、戦争で罪のない人々を殺した兵士に殺されたのです。その兵士は、無罪放免となりました。この世に正義など存在しないと、私は絶望しました。」

トマスは、10人を裁くことで、自ら正義を行おうとしたのだった。

「6人の小さな兵隊さんが門を押し開けました。1人が押しつぶされました。5人の小さな兵隊さん、逃げ出しました。」

最後の1節が、フレッドとウォーグレイヴの心に響いた。

フレッドとウォーグレイヴは、トマスを説得しようとしたが、その時、エセルがトマスを背後から撃った。エセルは、トマスの計画を止めようとしていたのだった。

「5人の小さな兵隊さんが、もう帰ってこなかった。」

童謡の最後の歌詞が、彼らの耳に響いた。

エピローグ:そして、誰もいなくなった

フレッドとウォーグレイヴは、この事件を生き延びた。しかし、この孤島で起きた出来事は、2人の心に深い傷を残した。

ウォーグレイヴは、自らの過去と向き合い、罪の意識に苛まれながら、残りの人生を静かに過ごした。フレッドは、この経験をきっかけに、警察官となり、正義を守る道を歩んだ。

「そして、誰もいなくなった。」

この物語は、10人の小さな兵隊さんの運命をなぞりながら、ミステリとサスペンスに満ちた結末を迎えたのだった。