ディバインゲート-ネーガイ

僕には自分の思想を他人に伝えたいという夢がある。細かい作業を厭わず、言葉に耽溺し、しかし溺れきらず広い視野をも併せ持つ若者が、いまの時代にはたしているのだろうか。作家とは、そんな言葉の渦に臆すことなく、入り込める存在だ。

ネーガイは作家になり、たくさんの人に言葉を伝える仕事を志す。

ぬとらじ

僕は今日、最後のぬとらじを始める。

人の話を聞かない…。

言葉の伝道師のスレは今日も批判的なレスで埋め尽くされる。

『つまらない』『死ね』『つまらな四天王の筆頭』

そういえば僕は嫌われていた。だからこそ、痛みを他人より理解出来る。人間の存在意義は、無の状態から何かを創り出すことにあるはずなのに、望んでもいないものに埋め尽くされ、周りはそれを恵まれているという。しかし、それこそが一番の不幸というものではないか。自分の力で何かを創り出したいと願ったことのない人間に、文学が書けると思うか。夏の暑さを、冬の寒さを知らない人間に四季の描写ができると思うか。心の底から欲したものが手に入らないもどかしさを知らない人間が、妬みや憎悪の感情を表現することができると思うか。そのために僕はまず、自分を無の状態に置き、己の欲するものを追求しているんだ。

ネーガイは宣言する。

「僕は多分これから、ぬとらじに上がれなくなる。」

歪んだ空間にずっといると、そこが歪んでいることに気付かなくなる。外に出て、自分がいた場所が歪んでいることを認識して、それでも戻りたいなら戻ればいい。荒らしや暴言の入り乱れる空間からの脱出。

「みんな、今までありがとう。禁止事項のない世界。静謐とは程遠い戦場、ここは僕の生き甲斐だった。」

ぬとらじで腫れ物として扱われ続けたネーガイの最後はあっけの無いものだった。日本とは液体の社会だ。腫れ物は浮き彫りになる。攻撃の対象はいつも何かが抜きん出ている人だった。

僕は人の話を聞かないんだ。僕は作家になり、人に話を伝えるんだ。

ネーガイの中では哀愁に近い情熱が湧いて溢れた。そしてネーガイは伝道師としての目的を定める。

僕の言葉を聞いた、誰かが……自分が何を経験したのか、自分は、なぜ生きたのか、自分は、一体何を見て何を聞き、何を思い、何をしたのか……それを、読者への鼓舞のためではなく、自らの弁護のためでもなく、ただ伝えるためだけに話すことができれば……僕の目標は終わる。